2012年6月30日土曜日

『性情報リテラシー』7.家へ来るのは「暗黙の了解」?

メッセージ 
 >前回



(新聞連載) 



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マサユキ(関連情報)は大学1年のとき、合コンで出会った女の子の家に招かれたことがある。「この子、Hしたいのかな」。期待がふくらんだ。



「中高生の頃見ていたテレビで、『家で2人きりになったら、やらなきゃいけないっしょ』と、お笑いタレントたちがよく発言していたんですよ。そんなもんかな、と思ってました」



 彼女の部屋へあがると、早速とばかりに迫ったマサユキ。ところが、強く拒否をされた。「これでやったら犯罪になる」と思って止めた。



「何なんだこの女、ふざけんなと。お前も家に呼ぶなよ、と思いました。やっぱり頭にあるんですよね、女の子が家に呼んでくれたら必ずいけるっていう情報が」



「家へ呼ぶ」手法は、女性をHへ持ち込む王道として、メディアの恋愛マニュアルに君臨する。数々の男性誌には、「『部屋で映画を見よう』と誘え」「ベッドに座らせて一気に押し倒せ」「家に誘って何もないと、女のコもしらけちゃう」といった『指導』が乱れ飛ぶ。  



 こうしたマニュアルは、「女性に嘘をつく」ことを推奨する。建前は「映画鑑賞」や「飲み直し」との名目で誘おう。でも家に来る女性にはその気があるに違いないから、押し倒しちゃって大丈夫……。



 だが現実には、前回紹介したように、こうした「口実」を無邪気に信用する女性も多いのだ。逃げにくい密室の中で彼女たちは、望まない性行為の被害者となる。



なぜメディアの作り手は、この種のメッセージを発信するのだろうか。雑誌やテレビ番組の内容を決める立場には、40歳前後の男性が少なくない。私が複数のこうした人々に聞いたところ、「部屋に来たらOKなんて、当たり前でしょ」と口を揃える。恋愛マニュアルが花盛りのバブル期に、青春をおくった世代だ。彼らに刷り込まれた当時の異性観が、再生産されている。



「その考え方は古いと思います」と言うのはキョウコ(関連情報 )。男友達が多く、彼らの家へ遊びに行っては、2人でゲームなどをする。



「男友達というのはあくまで友達で、恋愛やHの対象ではないので。世間に誤解がまかり通っているのは、迷惑ですね」



もちろんキョウコも、ドラマや漫画を通し「家へ行く女性はHもOK」というパターンは頭の中にある。だが、「メディアが勝手に描く女性像と、自分とは別」と思うのだ。



マサユキはいま、友人たちに「家へ来たからって100%H出来るわけでもないよ」と教えるようにしている。



続く



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・子ども達はメディアの性情報にどのように接し、
 自らの性行動・性意識にどう反映させているのか?

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リテラシー教育はどうあるべきか?

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2012年6月27日水曜日

『性情報リテラシー』6.身近にあるデートDV

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 >前回



(新聞連載) 



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「料理をご馳走してあげるよ」。ミサキ(19)は留学先のアメリカで知人の日本人男性に誘われ、部屋へ行った。彼は10歳年上で、新しい土地に不慣れなミサキの相談にのってくれる兄のような存在。食事の後、一緒に映画を見ていたら、徐々に部屋のライトが落とされた。彼の体がすぐそばに来ていた。

私は初めてだったんです。相手が何を求めているのか、自分に何が起こっているのか、全くわかりませんでした」



男性は避妊具を着けていなかった。それからすぐ、ミサキは彼を避けるように日本へと戻った。帰国後、生理が少し遅れた。



「もう自分は日本にいて1人だから、とても心配になりました。結局妊娠はしていなかったけれど、親にも友達にも、こんなこと言えない」



 大学1年生のカナ(18)は、「映画のDVDを見よう」と言われて同級生の男子の家へ遊びに行った。一緒に横になりながら映画を見ていると、背後にいた彼の手が徐々に体に触れてきた。冗談かと思っていたら、本気だった。



「彼は『大丈夫だから』とだけ言って、ことを進めていきました。少し抵抗したけれど聞き入れてもらえず、仕方なく許しました。でも、全然幸せではありませんでした」



顔見知りの相手による合意のない性交渉は、「デートDV(ドメスティック・バイオレンス)」の1つである。今回の取材で、女子学生たちの口からデートDVの被害体験が次々と出てきたことに、衝撃を覚えた。 



2人きりにならなければ安心、とは限らない。アユミ(関連情報)はあるとき、男友達Aの家へ遊びに行った。その場には男女の友達合わせて6、7人がいた。皆で飲んだ後、床の上で雑魚寝をすることに。うとうとしかけた頃、体に重みを感じて目が覚めた。Aがのしかかって来ていた。



一瞬ふざけているのかと思い、『やだやだやだ』と言ってアユミはAを蹴った。

「他の友達にバレたら面倒くさいから、大きな声は出せなくて。それでも彼が止めなかったんです。だからぶん殴って、『帰るわ』と言ってタクシーで帰りました」



 Aからは翌日、「自分は何をしたか覚えてない」とメールが来たが、無視した。あれ以来、連絡は取っていない。



「彼のことを友達と思っていたし、他にも人がいたから警戒しないで行ったのに。ショックでした」



 デートDVの多くは、家の中で発生している。密室であるだけに、深刻な事態に発展する場合もある。なぜ、家へ行く女子が狙われるのか。メディアが発信する性情報はどう関わっているのか。次回は男子の視点を紹介する。



 



続く



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2012年6月22日金曜日

『性情報リテラシー』5.露出服の意味

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 >前回



(新聞連載) 



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この女性と、最後までいけるかどうか。いざ誘う段階になると、相手の「OKサイン」を見極めようと、男子は様々に深読みをするようだ。





 ヒロト(仮名・22歳)は関西出身で、難関私立大学の文学部4年生。周囲からは「性豪」と呼ばれる。彼女はいるが、他にも数々の女の子と一晩だけの関係を繰り返してきたという。特に美形というわけではないものの、垂れ気味の目と少々ふっくらした体つきが愛嬌をかもし出す。卒業後はテレビ局でバラエティ番組を制作することを希望し、民放への就職が決まっている。





合コンで知り合った女の子とデートするとき、まず相手の服装をチェックする。「露出度が高い服を着ている場合は、『あ、こいつやる気かな』という目で見ちゃいますね。こっちが欲情してその気になります。雑誌にもそう書いてあったし」



 マサユキ(関連情報)も持論を熱く語る。「だって露出する必要がないでしょう。服を着て街を歩く以上、そこには公共性がある。だから露出が高い服を着て、その気があると思われるのは、申し訳ないが当然かなと」



誘いを断られて、傷つきたくない。そんな思いもあってか、「女性のOKサインをいかに見抜くか」は男性誌の永遠のテーマだ。40年近く前の男性週刊誌に、「女性の言葉、行動、目の輝きで分かる突撃の合図!」という特集が早くも登場している。なかでも、ミニスカートや胸の開いた服装は「大いに期待できるサイン」と指南されてきた。



 女性の考えはどうか。「露出に深い意味はないなー。好きな服を着ているだけじゃん」とバッサリ斬るのはキョウコ(関連情報「露出イコールその気があるとは、つながらないと思う」と否定する。だが男性に誤解を与えないよう、着るものには気をつけている。



「私は肩を出す服装が好きなんですけど、夜遅い時間に外を歩かなければならないときは、1枚はおるものを持っていきます。男友達と2人でドライブに行くときも、ミニスカートを履きたければ膝掛けを用意しますね。露出で誘っていると思われたら困るし」



私が大学生の女男を対象に実施したアンケート調査によれば、露出が高い服を「OKサイン」と考える男子は21%に上る。ところが、自分の露出にそのような意味を込める女子は4%に過ぎない。



 女性がどのような服を着るかは「好み」による部分も大きい。脚線美が自慢ならミニスカートを履きたくもなるが、必ずしも挑発しているわけではない。露出した肌を「見せびらかす」ことと、実際に「触らせる」ことには、雲泥の差があるためだ。



だが、このような心理は男性向けメディアにはわかりにくいと見える。痴漢の被害に遭った女性を、「露出する服を着ていたのが悪い」と逆に責める風潮すらある。勝手な誤解が、女子から服装の自由を奪う。



<続く








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2012年6月16日土曜日

アルコール・ハラスメントを取材して

福岡市の職員に出された1ヵ月の「禁酒令」が、間もなく終了を迎える。私はかつて、福岡の飲酒事情の一環としてアルコール・ハラスメント、いわゆるアルハラを取材した。今回は「性情報リテラシー教育」の連載をお休みし、こちらを御参考までに公開しよう(『総合ジャーナリズム研究』掲載)。



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夢と希望に溢れて入った新しい学校(会社)で、さあこれから!という時に死亡。原因は酒の飲みすぎ。しかも自分から進んで飲んだのではなく、飲まされたとくれば、「こんな死なせ方をするために育てたんじゃない」と、親は地団駄を踏むだろう。



アルハラを取材した。「アルハラ」、正しくはアルコールハラスメント。上司と部下、先輩と後輩などの上下関係、もしくは仕事の取引上の力関係などを利用して、相手に無理やり酒を飲ませようとする行為のことだ。毎年春になると、飲み会などでイッキ飲みを強要されて急性アルコール中毒になり、死亡する人が後を絶たない。



「イッキ飲み防止連絡協議会」によると、アルハラは東京や大阪などの大都市よりも地方で起こりやすいという。なぜなら地方には昔ながらの伝統やしきたりが根強く残っていて、「目上の人には絶対服従」とか、「酒を飲めなきゃ男じゃない」みたいな考え方が、21世紀の現代まで脈々と受け継がれているためだそうだ。



この分析は私の興味を引いた。ならば九州の福岡を取材してみてはどうだろう。九州男児の飲み方といえば、皆であぐらで輪になって、横には焼酎の一升瓶。土鍋のような杯になみなみと注いだそれを回し飲みして、男同士の結束を確認する・・・なんてイメージがアナタにも浮かんできませんか?くるでしょ。アルハラが起きやすいどころか、むしろそんなのは当たり前過ぎて、いいとか悪いとかいうレベルを超越してしまっていそうではないか。



そんなわけで取材に取りかかったのだが、手始めに焼き鳥屋でサラリーマンらに話を聞いてみて驚いた。グループで一見楽しそうに飲んでいる人でも、「場を盛り上げるため」とか、「断ると失礼」といった気遣いから、『飲みたくなくても仕方なくイッキしたりする』といった声がほとんどだったからだ。ああ、やっぱり九州男児といえども嫌なものはイヤなんだなあ。



「飲めなければ断ればいいじゃないか」と涼しい顔で言う人も世間にはいる。断れないような弱い奴が悪いんだ、と。しかし、それは強者の論理だ。酒を断ろうとする人に対して「付き合いが悪い」とか、「俺の酒が飲めないのか」と息巻く人々がそこかしこに存在するのが現実である。そのことで仕事上の人間関係にヒビが入ったりする。下手にリスクを背負ってまで断るというのは、弱い立場の者にとっては至難の業なのだ。



そもそも、飲ませる側というのは面白がってやっているだけなのだから、そんな人たちのために吐いたりブッ倒れなきゃならないというのはおかしな話である。責められるべきは断れない、弱い人ではない。飲ませる側が節度とモラルをわきまえてさえいれば、こんな問題は起こらないのだから。



ところで、アルハラを語るに欠かせないのが“お酌”の問題である。瓶ビールや日本酒を飲む時に必ずついてまわるこのお酌がクセ者で、まだコップに半分残っているのに「ほらもっと」なんて注ぎ足されたり、相手に注ぐタイミングを気にしなければならなかったりと、まさにアルハラを生み出す温床といえる制度だろう。みんなお酌制度に疑問を感じないのだろうか?と思っていたらありました、「手酌の会」が。お酒は手酌でマイペースに、という人たちの集まりで、福岡を本拠に組織は全国に広がっているらしい。覗いてみると、仕事上での注しつ注されつの飲み方に辟易した会社員らで溢れ返っていた。



そういえば以前オーストラリアに住んだ時、グループで飲み屋に行くと、各自の手元にグラスとビールの小ビンが置かれたものだ。自分の酒は自分で注ぐのが当然、という雰囲気だった。お酌が日本独特の制度かどうかは知らないが、生ビールを好む日本人が理由の一つに「お酌しなくてもいいから」を挙げていると聞くと、少々切なくなる。



アルハラの怖いところは、自分も気付かないうちに加害者になっている可能性がある点だ。なにせアルハラと呼ばれる行為には、これまで常識と思われていたものが多い。だが、心配するには及ばない。「イッキ飲み防止連絡協議会」が作成した、アルハラ度をチェックするリストがあるのだ。シラフの時にこっそり試してみるのをオススメする。



《アルハラ度チェックリスト》
①飲み会を盛り上げるためにイッキは必要
②相手にアルコールを勧めるのは礼儀だ
③訓練すればアルコールに強くなる
④みんなで酔っ払ってこそ連帯感が生まれる
⑤相手の本音を聞くにはまず飲ませるのが得策
⑥飲めない男性はなんだか男らしくない
⑦乾杯は必ずアルコールですべきだ
⑧酔い潰しても吐かせるか寝かせておけば大丈夫だ
⑨女性がお酌するのは当たり前だ
⑩未成年でも少しなら飲ませても構わない
⑪「あの時は酔っていたから」と言い訳することが多い



 以上、一つでも思い当たればアルハラ加害者になりうるそうな。





ちなみにこんなこと言ってる私はお酒が嫌いなのかというと、全く逆なんですねこれが。
むしろ酒を愛する者の1人として、お酒は楽しく味わって飲んで欲しいと切に願っているのである。



(総合ジャーナリズム研究、2001)



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2012年6月14日木曜日

『性情報リテラシー』4.人数は多いほどいい?

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(新聞連載) 



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「きょう会いたい」。マサユキ(関連情報)の携帯にメールが届く。合コンで知り合ったばかりの女の子からだ。自宅に呼び、とりあえず迫ってみた。「え~」と相手は困惑した表情を見せたが、押し切る形で性交した。その日以来、連絡はない。 



 



「最低人間だな自分は、と思いましたね。単発でやった後は毎回結局、自己嫌悪に陥るんです。何してるんだろ俺、こういう関係は良くないな、と」









 マサユキは千葉から上京し、有名私立大学に入った。東京育ちの同級生たちは遊び慣れていて、話題は「いかに合コンでお持ち帰りしたか」が中心。女性経験が少なかったマサユキの目に、彼らはまぶしかった。大学生になって読み始めたファッション誌にも、ナンパ特集が花盛り。次々と女性を口説く男性がヒーロー扱いされていた。





「わー、チャラい人すげえ、と思って。そういう人になりたいって憧れがありました。だから自分ではそこまで単発を望んでいるわけではないのに頑張って、結果が欲しいがためにした、ってとこがありますね」





 



「Hは色々な人と試してみたいんです」



 明るくこの言葉を発したのが、目の前で微笑む女性とはにわかに信じられなかった。アユミ(21歳)は目がパッチリと大きく、髪型はつやのあるボブ。ほっそりとした体つきで、肌は抜けるように白く、お人形さんのようなルックスだ。東京育ちで中学校から難関私立大学の付属に通い、現在は文学部の4年生。大手出版社から内定を取得済みだが、「広告代理店も捨て難いんですよね」と就職活動を続けている。



 アユミは高2で初体験をしてから、一気に奔放になった。通っていたのは、難関私立大学の付属女子高校。「エスカレーター式だから授業が忙しくなくて、すごいヒマなんですよ。みんな、とても遊んでました」







 男子と性交に持ち込むにあたってアユミたちが参考にしたのは、女子向けHow To本だ。「とにかく彼を褒めよ」「食べ物を取り分けてあげる仕草に、男子はドキッとする」などと書かれている。





「合コンで実践したら、面白いように男の子が落ちるんですよ。みんなで『あ、すごい効果あるね』とか言って。もう高校の頃はそういう実験ばっかりしてました。知り合った男の子とメールして気が合えばHして。サイクル2週間みたいな感じで、みんなやってましたね」





性交を恋愛と切り離して考える女性は、日本ではまだ少数派かもしれない。だが、アユミには自分なりのポリシーがある。





「私は結婚はまだ全く考えていないし、それなら色んな人と試したほうが楽しいかなって。交際する彼氏は一人いればいいと思うから、それ以外の人とはHだけ出来れば、付き合う必要はないと割り切っています」





日本性教育協会(2005)の調べによれば、性交相手の数が6人を超える大学生は男子で19%、女子も9%いる。体験人数の多さを「男らしさ」に結び付けるメディアに男子が突き動かされる一方、女子はあっけらかんとしている。














続く











 




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2012年6月8日金曜日

『性情報リテラシー』3.メディア情報に揺れる初体験

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(新聞連載) 



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サトシ(仮名・23歳)は有名私立大学の文学部4年生。北陸出身で色白、小柄で目が細く、どことなく歌舞伎の女形を連想させる。内定先は財閥系の商社。就職活動で身につけたと思われる物腰は礼儀正しい。「初体験は中3です」と言われたときは少々意外に感じた。



サトシには現在、同じ大学に交際1年半になる彼女がいるが、それまでは短期間の関係のみを繰り返してきた。その1人目となる彼女が出来たのが、地元の公立中学3年生のときだったという。



小学生の頃に成人雑誌、中学生になってからはAVやネットのアダルトサイトを愛用していたサトシは、早く実際に性行為をしてみたいと思っていた。親がいない間に彼女を家へ呼び、迫った。だが、相手はどうも乗り気ではない。



「はっきり嫌とは言わなかったけど、『うーん、うーん』みたいな感じで。『はい、しましょう』ではなかったですね。でも僕は、やりたい盛りだったので、相手の気持ちまで頭が回らなかったんです」



 
結局、半ば強引に遂行した。彼女はその後、去っていった。初体験用にサトシが参考にしたのは恋愛マニュアル雑誌。「彼女が部屋に来るのは期待度大」「女は恥ずかしがるフリをするから、男が大胆に行け」などと書いてあった。仲間内で最も初体験が早かったサトシは、それらの情報を信じるしかなかったという。



「友達は未経験だから聞けないし、親や学校も教えないので、メディアの存在が大きかったんです。自分に体験がないと、メディアからの情報が嘘か本当か判断出来ない。判断基準がないし、判断する余裕もなかったですね。あのときの彼女には、身勝手で申し訳なかったと思います」



 前出のキョウコ(21)が初めて男子と付き合ったのは、高校2年生のとき。他校の1年先輩だった。1ヵ月も経たない時期にドライブに誘われ、食事に行くのかな、と乗り込んだ。すると車はラブホテル街へ。嫌悪感がわき起こったが、同時にある考えが背中を押した。



「私も結局、まあいいやと思ったんですよね。もう高2なんだから、そろそろHしないと、って気分もあったし」



 キョウコの学校では携帯の出会い系サイトが流行り、そこで知り合った相手と初体験を済ませている友人が多かった。さらに、ファッション雑誌の性特集のアンケートでは、初体験年齢の1位が「15歳」と紹介されていた。



「そういう話を聞くと焦るというか、私も早くHしなきゃいけないのかな、と思うようになりました」



 高校生の性交経験率は30年前に比べ、男子が10%から27%へ、女子が6%から30%へと大きく上昇した(日本性教育協会、2005)。年齢が早いほど、参考に出来る情報はメディアくらいしかない。同年代の性交経験者の情報がメディアを通して与えられることも、プレッシャーとなる。子どもたちが初体験に直面するとき、その方法や決断は、メディアに大きく左右されている。





続く



【参考文献】
最新刊!性教育とメディア・リテラシー
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『性情報リテラシー』


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2012年6月1日金曜日

『性情報リテラシー』2.女子の性の目覚め

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(新聞連載) 



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家にお父さんが隠しているAVがあるんだ、見つけちゃった」。
キョウコ(仮名・21歳)が中学1年のとき、友人が興奮した様子で言ってきた。早速その子の家に女子だけで集まり、両親の外出中に鑑賞会を開いた。



「うわー気持ち悪いな、と思いました。写真と違って動きとかもすごくリアルで。でもその行為が何を意味するのか、ちゃんとはわかっていませんでした。みんなで『マジきもくない?』と言い合って、すぐ消しちゃった」



 キョウコは、有名私立大学の文学部4年に在籍している。北関東の中規模都市の出身だ。長い髪を一つに束ねて、ナチュラルメイク。太目の眉が素朴な面影を残している。卒業後は金融関連の会社に就職する予定だ。

「育った地域は自然が多くて、小学生時代は性的なメディアに触れることもあまりなかったんですけど、
中学校へ上がると激変しましたね」と振り返る。



 日本性教育協会の調べ(2005)によれば、女子が性的関心を初めて持つのは平均12.99歳で、男子の12.27歳と大差はない。小学校高学年から始まる性教育に「寝た子を起こすのではないか」との議論は根強いが、子どもたちはとっくに目覚めている。 



 意図せず性的メディアを目にしてしまう子どもも多い。場所は他ならぬ「家庭」だ。父親が隠し持っていたポルノを見つけ、「ショックだった」「汚らわしいと思った」などの声が寄せられた。児童虐待防止法は、子どもにポルノを見せることを「性的虐待」と定めている。



女子が育つ過程で接する性的なメディアは、紙媒体中心の傾向がある。ファッション誌が「性」に関する特集を頻繁に組むためだ。「私の初体験談」「テクニック自慢」など、なかなかに赤裸々である。背伸びしたがる女子は小学校高学年から読み始め、耳年増になっていく。最近は、イラストが多用されたティーンズラブ小説や同人誌、ケータイ小説も、過激な性描写で人気を集める。こうしたメディアは18歳未満でも堂々と入手でき、表紙の絵柄が可愛らしいので親にばれにくい。



一方、映像系メディアへの接触率は極端に低い。AV視聴経験がある高校生女子は17%で、同男子の59%に比べ3分の1以下だ(日本性教育協会)。AVに興味がなくはないだろうが、女子には入手しづらいようである。




キョウコは女友達数人と、思い切ってレンタル店のAVコーナーに入ったことがある。

「でも1人では行きにくいです。あのコーナーって仕切りで閉鎖された空間だし、中が見えないから、もし男の人がいたらなんか嫌だなと。そもそも男性向けのAVは充実しているのに、女性向けはほとんどないじゃないですか。作ればいいの
に、と思いますね」



女性の性欲や性的好奇心はいまだ、男性のそれほどには社会的に認知も肯定もされていない。「女のくせにはしたない」という規範は残る。若者も、それを感じ取っている。



 



続く



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