2019年3月22日金曜日

慶應義塾大学による不当な学位調査とアカデミック・ハラスメントについて

【掲載5年によせて】

下記の記事は2019年に掲載して以来、アカデミック・ハラスメントに関心を持つ多くの人々から読まれてきた。

この5年間で、わが国におけるアカハラをめぐる状況は改善されただろうか。

昨年には、大学生や若手教員でつくる団体が文科省に対し、アカハラ被害実態調査の実施や対策の整備を求め、約2万4千筆の署名を提出した。

だがアカハラの全国的な被害実態について、文科省による調査は、いまだ行われる兆しが見えない。

私自身も5年前、図らずも下記の件に直面し、アカハラの舞台裏を垣間見るという、ジャーナリストとして得難い経験をした。

その渦中で気づいたのは、学外の相談機関の乏しさやメディア報道のあり方など、当事者にならなければ見過ごしていたであろう問題の数々である。

今後、アカハラの予防や対策を講じようとする動きがあれば、私の経験が役に立てばと考えている(未公開情報も複数存在する)。

最後に、下記の件に関しては、第3者であるアカデミズム関係者の方々からも多くの応援を頂いた。改めて感謝したい。

2024年2月 
渡辺 真由子



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【慶應義塾大学による不当な学位調査とアカデミック・ハラスメントについて】

慶應義塾大学は今月20日、
SFC(湘南藤沢キャンパス)が当方に博士の学位を授与した論文
『児童ポルノ規制の新たな展開~創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題~』について、調査の結果取り下げると発表した。

当該論文は、慶応大学による指導監督下において学生(当方)が執筆し、同大学が正式な審査過程を経て合格と認定し、学位を授与したものである。

今回、調査対象とされた論文は、この合格した論文と全く同一だ。

大学側により認定された合格論文が突然、後付けで取り消され、しかも全責任を学生に負わせる形で幕引きが図られたことに、大変困惑している。

後述するように、当該論文における形式的不備は、当方による故意ではなく、何らやましい点はない。

それにもかかわらず大学側は、なにゆえに取り下げという判断をしたのか。形式的な不備があると今になって主張するならば、なぜ最初の審査段階で学生側に指導し、修正の機会を与えなかったのか。

今回の調査結果の判断理由を示すよう大学側に求めたところ、「調査報告書は見せられない」との一点張りであり、学生側への説明責任を果たそうとしない。

本件は、慶応大学による当方へのアカデミック・ハラスメントと認められ、ここに強く抗議する。

事態の背景に何があるのか。

実はこれまで表には出さなかったが、大学側からは以前より、当方の研究・ジャーナリスト活動に対し、度々介入が行われていた。

 例えば、かつて慶応大学に関する性犯罪疑惑をテレビ番組や週刊誌が報道したとき(『被害女子学生を突き放して保身!福沢諭吉が泣いている「慶応大学」がけしからん!』週刊新潮)、当時博士論文の執筆中だった当方は、コメンテーターとして大学側を表立って批判したことがある。

大学側は即座に、論文審査への影響をちらつかす脅しともとれるメッセージを当方によこし、口止めを要求してきた。

ジャーナリストである当方の存在は、
確かに大学側にとって極めて目障りだったかもしれない。
だが、今回の博士論文をめぐる大学側の横暴ともとれる措置が、自分達に都合の悪い学生を迫害しようとしたものであれば、断じて許されない。

大学側に対しては、学位撤回という結論を捻出した手法は非常にずさんで、学生側の人権を侵害したものと見なさざるを得ない。

その主な理由は以下の3点である:

第一に、本件は故意によるものではない。
第二に、大学側の調査委員会のあり方は、極めて不適切である。
第三に、大学側は指導教育機関としての責任を果たしていない。

以下、詳細を述べよう。

第一に、本件は故意によるものではない。

編集過程における齟齬が発生した書籍版とは異なり、本論文では、不備があるとされる章(全8章中の第7章部分)の引用箇所について、注に出典を明記している。
もちろん、いわゆる剽窃になることを避けるためである。
引用自体、アカデミズムで正当な行為として認められているものだ。

そもそも引用先の論文はネット上で公開されており、万が一故意に流用すれば、すぐに暴露するのは自明である。
そのような危ない橋を渡る気はない。

実際、大学関係者によれば
「SFC側は本件を、学位取り消しに相当するとまでは考えていなかったようです」
という。
ではなぜ、最終的に取り消しとの判断がなされたのか。
「合議をした三田(キャンパス)側はもともと、新設ながら目立っているSFCの存在が面白くなかったのです。さらに三田側の上層部の一人が、感情的に取り消しを主張したと聞いています」(同関係者)。

この「上層部の一人」というのは、
過去に当方の「ジェンダーと人権」をテーマとする研究内容に拒否反応を示し、阻止しようとした男性である。
学内派閥や私情によって学位が左右されたのであれば、甚だ不当だ。
 
第二に、大学側の調査委員会のあり方についても、極めて不適切である。

研究上の問題を調査するにあたっては、
文科省がガイドラインを示しており、
慶大もこれに近い形の学内ガイドラインを設けている。
しかしながら本件の調査過程には、
これらのガイドラインに準拠していない点が複数存在する。

慶大のガイドラインは、
委員会が調査を行うことを決定した場合、
調査対象者に「調査を行うことを通知」することを定める。
だが今回、大学側が調査委員会を立ち上げた際に
当方への通知は一切なく、
立ち上げから1ヵ月半以上が経過してから
唐突に連絡を受けた。

また、文科省のガイドラインは大学側に対し、
調査対象者名や調査内容については
結果の公表まで調査関係者以外に漏えいしないよう、
「関係者の秘密保持を徹底する」ことを求めている。
しかし三田広報室は、当方に調査委員会の立ち上げすら通知していない段階で、
マスコミに調査に関する情報を漏らした。

大学関係者によれば、広報室は
「マスコミに聞かれたから答えた」と弁解しているという。

ところが広報室は報道対応の指針として、
在学生・卒業生などにつき
「個人情報に関するお問い合わせには応じられません。」としている。
実際、学生による性暴力を始めとする数々の不祥事が起きても、
当事者の名前すら公表しない。 

そうでありながら、当方に関する「デリケートな個人情報」はあっさりと漏えいしたことには、
私怨を感じざるを得ない。

さらに慶大のガイドラインは、調査委員会のメンバー構成について、
「義塾に属さない外部有識者を半数以上含めなくてはならない。」と定め、
委員の氏名・所属については、調査対象者に示すものとしている。
また、メンバー構成に対し調査対象者は、「通知着後10日以内に異議申し立てをすることができる。異議申し立てについては、委員会はその内容を審査し、その内容が妥当であると判断したときは、部門長に依頼して委員の交代を行」う、と定める。

上記の規定に反し、
今回の調査委員会のメンバー構成は、
大学側の教員3名及び大学側が手配した弁護士1名であった。
なお、当方の博士論文の指導教授も調査対象者とされるが、
調査委員の中には、同教授の教え子も含まれていた。
この教え子委員は同教授に近い立場におり、調査期間中も飲食を共にするなど、懇意にしていたことが明らかになっている。

そのように公正中立性が疑われるメンバー構成であることは、
大学側から当方に事前に示されず、
異議申し立てが出来ることへの説明もなかった。

これらの点を鑑みると、大学側は調査過程において、学生側への適切な配慮を怠ったといえる。

第三に、大学側は指導教育機関としての責任を果たしていない。

大学側は、数百万円の学費収受と引き換えに、学生(当方)に対し6年にわたり研究指導を行い、正式な審査過程を経て学位を授与した。
この事実を大学側が重く受け止めるのであれば、
博士論文の修正や再指導等、何らかの救済措置を講じて然るべきと考える。

そもそも、不備がある状態で書かれた論文に対し、なぜ大学側は当初、何の指摘も指導もしていなかったのかは大きな疑問である。学生として、速やかに修正する機会を与えられなかったのは誠に遺憾だ。

故意でない不備であるにもかかわらず全責任を学生側に転嫁し、指導した大学側が
被害者面を決め込むのであれば、危うくて学生は論文など書けない。

以上、
この種のケースで後に続く学生のためにも(まあ誰も続きたくないだろうが)、
大学側には強く抗議するものである。

>>続報「大学調査委員会のあり方とアカデミック・ハラスメント」

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https://gumroad.com/l/childporn【博士論文『児童ポルノ規制の新たな展開~創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題~』の概要】

本研究では、「実在しない子どもを性的に描くマンガやアニメ、ゲーム等の表現物」(以下、「創作子どもポルノ」)の規制に関し、国際社会の枠組みとは日本の規制状況が取り組みを異にするという課題において、それらが一致していない要因に着目する。その上で、子どもの性に関する人権保護へ向け、国際規範との整合性を確保するために必要な方向性を提示している。

児童ポルノ規制をめぐる従来の主な研究が「表現の自由」の観点から議論されてきた中、本研究は「人権」の観点から、新たな児童ポルノ規制のあり方を考えることを目指したものである。

本研究の提言は、我が国における創作子どもポルノ規制の法整備のあり方にまで踏み込んでいる。

折しも2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、日本のマンガやアニメを海外に発信する「クール・ジャパン戦略」が政府を筆頭に推進される中、我が国には今こそ、創作子どもポルノ規制において、国際規範に沿った人権感覚を適用することが望まれる。

*本論文の要約版はこちら