ピザの生地を顔面に張り付ける。パトカーの屋根に乗る。コンビニエンスストアの冷凍ケースに潜り込む……。こうした自分の姿を撮影し、インターネット上に投稿する事例が後を絶たない。
仲間内で画像をこっそり披露するのだから、悪ふざけと笑って済まされると考えたのかもしれない。だが実際には、ネットで「公開」したことにより不特定多数の目に触れ、投稿者たちは激しく責められたり、雇用先を解雇されたり、さらには逮捕者すら出たりする事態となった。
このような行為をした者は、主に大学生や20代会社員といった若者である。幼い頃からネットに慣れ親しんできた、いわゆる「デジタルネイティブ」世代だ。だが、ネットに投稿する内容は世界中の人々に見られるという意識や、もし見られた場合どのような反応が起きるかという想像力は、あまりに乏しいと言わざるを得ない。
ネット環境の整備と共に、携帯電話やスマートフォン等の普及も進み、いまや誰もが情報を発信できる時代になった。当然、発信者としての「ネット・リテラシー」も身に付ける必要がある。
まず知っておきたいのは「集団心理のわな」だ。冒頭の画像が投稿されたのは、ツイッターやフェイスブックといった、仲間内で交流出来るソーシャルメディアである。特定の集団の規範においては、過激な発信がもてはやされることもあろう。メンバーから称賛を受けたくて暴走してしまう危険性があることを、自覚せねばならない。
2点目は「書き込みのマナー」。ネット上では匿名だからと、感情をむき出しにして書き込んでしまうケースは、大人にも珍しくない。ブログで上司を名指しの上「死ね」「抹殺したい」などと記載して免職処分を受けた者や、ネット掲示板で知人を繰り返し「犯罪者」呼ばわりしたとして名誉棄損容疑で逮捕された者などが相次ぐ。
最高裁は2010年、「個人が発信するネット情報も、その他のメディア報道と同基準で名誉棄損罪が成立する」との初判断を示した。ネットに書き込んだ者が誰なのかは、しかるべき手段をとれば殆どが特定可能であり、決して匿名ではない。気軽に発信する前に、その内容や言葉使いが適切か、一度立ち止まって自分に問いかけたい。
こうした書き込みのマナーについては、ソーシャルメディア上でも同様だ。ツイッターやフェイスブックでは有名無名の個人とつながることが出来、簡単にメッセージを投げかけられる。その分、面識がないのに馴れ馴れしい文体にしたり、自分の主張を押し付けたりしてしまいがちだ。特に大人は、ネット上でも相手を不快にさせないよう、ビジネスマナーに即して振る舞いたい。
一方的に質問やコメントを送りつけ、相手の回答がないと怒りだすユーザーも時折見かける。大多数の人にとって、ソーシャルメディアの利用は仕事ではなく、無報酬の趣味である。いちいち自分の発信に反応してもらえると期待しない方がいい。
最後に、「個人情報の扱い」について。神奈川県で昨年、女性が元交際相手に刺殺された事件では、相手が女性のフェイスブックの写真や書き込みから住まいを特定しようとしていた。ネットを悪用して付きまとう行為は「サイバーストーカー」と呼ばれ、ソーシャルメディアの流行に伴い問題化している。今年6月に改正されたスト―カー規制法では、執拗にメールを送る行為も規制対象とされた。
ネット上で個人を特定されないためには、どうすれば良いのか。ソーシャルメディアで公開するプロフィールは友人しか見られないよう閲覧制限をかけ、自宅や居場所を推察させるコメント(「近くに〇〇がある」「窓から〇〇が見える」など)は書き込まない。スマートフォンで撮影した画像を投稿するときは、撮影場所が表示されるのを防ぐためGPS機能をオフにしておく、といった対策が必要だ。
ネットで何かを発信すれば、様々な人が様々な思いで受けとめる。結局、「スクリーンの向こうに人がいる」のを忘れないことに尽きるのだ。
(熊本日日新聞「論壇」2013.8.18寄稿に加筆)
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