2013年8月1日木曜日

児童ポルノ禁止法改正案と都条例(「毎日新聞」寄稿)

 

渡辺真由子 毎日新聞 児童ポルノ改正

 

 

 

 

 

 

 継続審査となった「児童買春・児童ポルノ禁止法」の改正案が、
附則として「児童ポルノに類する漫画やアニメ、CG等と
児童の権利を侵害する行為との関連性」に関する調査研究を推進するよう
盛り込んだことで、賛否両論が沸き起こっている。


「被害児童が実在しない」創作物の性描写をどう扱うかという問題は、
2010年に改正された東京都青少年健全育成条例をめぐっても、大きな議論を呼んだ。
よって御参考までに、
「メディアの性表現と青少年保護」について当時私が新聞に寄稿した内容を
御紹介しよう。


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『問題は作品の発信内容』



小学生の女児が男性教師の下半身に嬉しそうに手を伸ばす。
10代の姉と弟の生々しい近親姦。
少女が全裸で鎖に縛られ、性的な拷問を受ける。

いずれも、成人指定されていない「一般向け」の漫画雑誌に掲載された内容である。カラーページの女児の裸は、第二次性徴前の体つきや肌の色が非常にリアルだ。カバーをかけられることもなく書店に並べられ、子どもも簡単に手に取ることが出来る。

東京都の青少年健全育成条例改正案は、青少年に対する強姦等の悪質な性行為を描いた漫画やアニメを、成人向けの棚に陳列するよう求めた。現行の不健全図書指定制度は、規制の基準を「性器描写の明確さ」等に限定している。このため、子どもへの強姦や輪姦、近親姦を描く漫画であっても、性器がぼかされて等さえいれば実質的に野放しだ。  


 漫画やアニメといった創作物の性暴力描写については、「被害者が実在しないのだから規制は必要ない」との声もある。しかし、問題はそんなに単純ではない。漫画は、子どもの性意識や性行動に影響を与えているからだ。

日本性教育協会の調べ(2005)によれば、中高生が男女交際や性交に関する情報を入手する先として、「コミックス・雑誌」は「友人」に次ぎ2番目に多い。親や学校がまともに教えてくれないぶん、漫画は「性の教科書」として重宝されている。
私は昨年、都内の大学生男女を対象に、メディアと性意識・性行動との関連を調査した。ある男子は中学3年のとき、交際する彼女に初体験を迫った。だが彼女は乗り気ではない。結局、強引に性交した。その後、別れを告げられたという。

「当時よく読んでいた漫画に、女の子が口では『いやー、やめて』とか『やだー』って嫌がっていてもだんだん喜ぶ、っていうパターンが多かったんです。最初は恥ずかしがるフリをするもんだろう、と考えていました」


漫画の性描写には、「女の子は本心では襲われたいと思っている」という、男性側の罪悪感をかき消す「強姦神話」が多々織り込まれている。人生経験の少ない子どもが、これらを信じることは大いにあり得るのだ。


さらに、強姦や近親姦をあたかも子どもが喜んで受け入れているかのように描く漫画やアニメは、それを見る子どもの抵抗感を薄れさせかねない。自分の若さや性を「価値ある商品」と思い込まされれば、援助交際や下着販売に手を出したくもなるだろう。アジア女性基金の調査(1997)では、援助交際をする女子高校生は、メディアの情報を鵜呑みにする傾向が高いことが明らかになっている。


創作物は「何でもアリ」なだけに、一定の歯止めは必要だ。その作品が生身の人間を登場させるかどうかではなく、どのような「メッセージ」を発信しているかが問題なのである。同時に、学校や家庭において、メディアの性情報を批判的に読み解くリテラシー教育を取り入れることを求めたい。 

(毎日新聞『論点』、2010.6.11 掲載)


【参考文献】


『性情報リテラシー』渡辺真由子著
◆【実務編】
『性情報リテラシー』

・子ども達はメディアの性情報にどのように接し、
 自らの性行動・性意識にどう反映させているのか?
・「性的有害情報対策」としての
 リテラシー教育はどうあるべきか? 
  ⇒メッセージ&目次    

 




103
◆【データ編】

『性的有害情報に関する実証的研究の系譜
~従来メディアからネットまで』

情報通信学会誌103号


・性的有害情報が与える影響研究に関して、
 海外国内の最新状況を概観(児童ポルノ・創作物含む)
   ⇒要旨はこちら









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