2012年4月15日日曜日

『わたし流番組論』 後編

わたし流番組論
『常識や習慣から解き放たれてみたい
~「新しい価値観」「新しい場所」を求めて』

                                                (月刊民放 2001年9月号)



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前編 ▲中編





〈その地だからこそ出来るテーマを〉





私はいま福岡の放送局で働いている。
出身は石川県の金沢市だと告げると、相手は皆驚いた顔をする。
なぜ縁もゆかりもない土地に、というわけだ。
だが、私の人生はそれまでも、縁もゆかりもない土地に住むことの連続だった。
愛知で生まれ、奈良、金沢、東京にオーストラリア。
自分を根無し草のように感じ、故郷を持つ人をうらやましく思うこともある。
しかし、行く先々で違う人々の価値観や生活習慣を知るのは興味深く、
新しい場所への移動にむしろ私はワクワクするのだ。







福岡で報道の仕事をするからには、その地だからこそ出来るテーマを
扱いたいと思っていた。2年前の夏、思いがけない情報が飛び込んだ。
全国で初のセクシュアル・ハラスメント裁判を福岡の女性が起こしてから、
その年でちょうど10年の節目を迎えるという。





私の胸は高鳴った。なぜなら学生時代、講義のレポートを書くために
読みあさったセクハラに関する文献で、その事件は何度も紹介されていた。
当時はまだ学生だった自分だが、将来報道の仕事に就いたら
是非取材してみたいと思っていたのだ。





その女性は事件以来初めて、テレビの前に顔を出すことをOKしてくれた。
私は意気込んだ。それまでセクハラに関するニュースは
あちこちのテレビや新聞、週刊誌で見聞きしていたが、
どれも物足りなく思えていた。
セクハラを可能にしている私たちの社会の仕組み、女性への偏見という、
問題の根本的な部分が抜け落ちているように感じたのだ。
もっと、自分なりの視点から、かゆい所に手が届くような作りにしたかった。





しかし実際の取材はそう簡単に進むものではない。
忌まわしい思い出を話すことにいい気持ちはしないだろう。
私は奢っていたのかもしれない。
本でかじった知識と、同じ女性であるというだけで、
彼女の苦しさや辛さが理解出来ると。
 相手の気持ちを充分思いやっているつもりでも
少しでも深い話が聞きたくて不躾な質問をし、
不快な思いをさせてしまったこともあった。
彼女の夫にもテレビの前で話を聞きたかったが、
周囲の眼があるからと強く拒否された。
妻がセクハラに遭った過去を
10年経った今でも口に出せない夫。




加害男性は軽い気持ちでしたであろう行為が
当事者にはいつまでも癒えることのない傷として残ることに、
セクハラ被害の深刻さを思い知らされた。
と同時に、セクハラの被害者に好奇の目を向けることで
その口を閉ざさせてしまう、私たちの社会の未熟さを痛感した。





紆余曲折を経てようやく完成したこの特集は、
10分間にまとめたものを「ニュースステーション」で放送した。
視聴率は20パーセント近かったと記憶している。
自分たちの作った作品が地元だけでなく、
全国の沢山の人に見てもらえるというのは新鮮な喜びだった。
そして、新しい地で自分がやるべきことを探し続けていた私は、
ようやく少しだけ肩の荷が降りた気がした。













〈映像、音、そして活字〉





記者になって今年で4年目を迎える。
一貫したテーマは「新しい価値観」を創ること。
これまで常識だと思っていた習慣や考え方を改めて見直し、
一人一人がそのしがらみから解き放たれてみることで、
より人間らしく生きやすい世の中に出来ないか。
そんな思いでこれまで
「なぜ男性は真夏にもスーツを着るのか」「上下関係で行われる飲酒の強要」
などを題材に取り上げ、自分なりに検証してきた。












いまは細々とやっていることで、
一体どれだけの人に関心を持ってもらえているのかわからない。
価値観や習慣も地域ごとに、さらには国ごとに大きく異なっている。
いずれは世界中の良いところをメディアに取り込み、発信して、
日本全体がHAPPYになればいい。そんな夢物語を考えている。










ところで今回、放送文化基金賞のラジオ番組優秀賞という、
日頃テレビ報道専門の私にとって思いがけない分野で賞を頂いた。
映像こそが最も訴える力を持つと信じていたが、
音だけでこんなにも人の想像力を刺激できることに気付かせてもらう
いい機会になった。
 では、音も光もなかったら・・・?。
最近は活字媒体に興味が湧いて、ルポルタージュものをよく読む。
どのメディアがベストかなんて答えは出ない。
ただ、いずれは活字の世界にも挑戦してみたいと、
ひそかに目論んでいるのである。(了)









































































前編 ▲中編











【参考文献】
最新刊!性教育とメディア・リテラシー

4_2
『性情報リテラシー』


・子ども達はメディアの性情報にどのように接し、
 自らの性行動・性意識にどう反映させているのか?

・「性的有害情報対策」としての
 リテラシー教育はどうあるべきか? 



 




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