2013年9月11日水曜日

いじめとジェンダー、メディアの関係(雑誌寄稿)

「あんたは気持ち悪いから、死んでええわ」。
芸人が舞台上で相方に言い放つ。そして、手拍子を取り始めた。
「死―ね、死―ね、死―ね……」。
観客たちも、笑いながら手を打ち鳴らす。「死―ね、死―ね、死―ね……」



あるお笑い公演を見たときの一幕だ。芸人たちのネタは、相手の外見やコンプレックスをあざ笑ったり、見下したりすることでウケを狙う内容が多い。聞き手の優越感をくすぐるので、笑いがとりやすいからだ。この種のお笑いが、日常的にメディアを通して多くの子どもの目に触れ、「いじめ」のヒントを与えている。



体の太さや髪型、背の低さ、髪の毛の薄さなどは本来、身体的「特徴」に過ぎない。その特徴を「欠点」と決め付け、からかいの対象とすることは即ち、「この特徴を持っている人はバカにしてもいいんですよ」というメッセージである。それは子どもの価値観に浸透し、行動パターンを規定する。「あいつの髪型は変わっているから」「あの子の口は臭うから」自分たちより劣っている。だから、いじめてもいいのだと。



中学時代にいじめられたという高校1年生のA子は、こう指摘する。
「いまの笑いって人を叩いたり、自分がその人より上にいたりすることを前提に成り立っている。そういうのを見たら現実の場に持ち込んでしまって、見下せる相手をいじめるんじゃないかな」



女子のいじめの場合、「ジェンダー(社会的・文化的な性のありよう)」が関わるケースも多い。最近の女子はまず「仲良しグループ」を作ったうえで、その内でいじめを行なう傾向がある。メンバーを一人ずつ順番にいじめのターゲットにすることで、結束を強めていくのだ。「いじめるのは嫌だと言ったら仲間はずれに
されるから、怖くて言い出せない。いつ自分がターゲットになるかと、毎日ビクビクしている」と、ある女子中学生は打ち明ける。



私たちの社会は女の子に対して、「気配りが出来るように」「みんなと仲良くしなさい」と求めがちである。逆に、意見をはっきり主張する自立心旺盛な子には「女の子なのに気が強い」「男勝り」とマイナス評価を与える。



幼い頃からこうしたジェンダー観を刷り込まれてきた女子たちは、学校内でも「和」を保つことに神経を尖らせ過ぎて、いじめをしてしまう。



もう1つ、女子のいじめとして特徴的なのは、顔立ちが可愛い子や男子にモテる子を、標的にしがちなことだ。そのような子に対して、「調子に乗ってんじゃねぇよ」と陰口を叩いたり、暴行を加えたりする。



「顔は女の命」というジェンダー観は、世間に依然として残る。メディアも美容整形特集を組み、可愛い女の子をもてはやす。外見至上主義ともいえる価値観を、女子は育つ過程で「学習」していくのだ。このため、外見が目立つ子に対して「自分より優れている存在」と嫉妬と脅威を感じ、足を引っ張ろうとする。




メディアやジェンダーが絡むいじめに対処するために、大人に出来ることとは何か。



最も重要なのは「メディア・リテラシー」の育成である。
「メディアの特質、手法、影響を批判的に読み解く」能力と、「メディアを使って表現する」能力の複合だ。
子どもが自分の頭で情報を判断できるようになるには、特に前者が早急に必要である。



子どもにメディア・リテラシーを教えるには、まず大人のあなたが、
メディアが子どもに与える影響を理解しておかねばならない。
冒頭のお笑い公演で、「死ね」コールに率先して手拍子をとり、
相方をブタ呼ばわりするコントに大口を開けて笑っていたのは、なんと大人たちであった。

笑う子どもをたしなめる親もいない。
お笑いに慣れてしまい、その異常さを感知できないのだろう。
子どもはそんな親の姿を見て、「やっぱりバカにしていいことなんだ」と学習する。



子どもと一緒にメディアに接しているときの親の振る舞いは、メディア・リテラシー教育のキーポイントだ。
例えば子どもとテレビを見ていて、他人を見下す言動や暴力表現が出てきたら、
「これは許されない行為だ」とか「こんなことは現実にはあり得ない」などとコメントしよう。
テレビに没頭する子どもを冷静にし、番組を客観視させる。
そこで繰り広げられている内容を「普通のこと」と認識するのを防ぐ効果があるのだ。



また、メディアが女性について「愛想良くあるべき」「出しゃばるのはみっともない」といった論調で描いていたら、
「性別による決めつけはおかしい」「あなたらしさが大事」と説明しよう。



「どうしてメディアでは、女の子の外見が重要視されているの?」と問いかけ、
社会に潜むジェンダーの偏見に気付かせるのもいい。



つまり、メディア・リテラシー教育で重要なのは、大人が子どもに「一歩引いた目線」を提供することだ。
子どもがメディアを真似て軽々しくいじめを行なわないよう、情報を鵜呑みにしない目を育んでいこう。



(教育雑誌『おそい・はやい・ひくい・たかい』寄稿)



【参考文献】

1



大人が知らない ネットいじめの真実


   (渡辺真由子著、ミネルヴァ書房)



 ◆中学道徳教材 採用文献 (3刷)












Photo_2


 『性情報リテラシー』 (渡辺真由子著)

 ・子ども達はメディアの性情報にどのように接し、

  自らの性意識・性行動に
どう反映させているのか?
 ・「性的有害情報対策」としてのリテラシー教育とは?

  ⇒メッセージ&目次







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