2025年4月25日金曜日

「性的広告」のリテラシーとジェンダー(カナダ大学講義)

 

 

性的な描写を伴う広告がネット上に蔓延し、問題となっている。
子どもを性の対象として扱う表現も目立ち、「児童性的虐待コンテンツ」であるとして、今年に入り国会でも議論になった。
こども家庭庁は、「法制上の対応の必要性の有無などを含めて、司令塔機能を果たしたい」とする。

性的広告の多くは、コミックやゲームなどの創作物だ。日本は「創作物の性表現」について、規制のあり方を正面から議論してこなかったため、いまになって対応に追われている。

児童性的虐待表現物(CSAM)と表現の自由に関する論文はこちら

▶性的有害情報の影響に関する科学的データはこちら

 

ところで、メディア・リテラシー先進国のカナダでは、広告の読み解き方に関する研究・教育が20年以上前から行われている。 

今回は、私がカナダの大学で受講した、広告分析の授業をレポートしよう。


広告のカラクリ~渡辺真由子の「会社を辞めてカナダ留学」第5回~                  

ほぼ全裸の女性がニッコリ笑って立っている写真を、教室のスクリーンが映し出す。写真は広告だが、何を売ろうとしているのか一目ではわからない。

彼女のかろうじて一部が隠されているだけの体から手元へと目をやると、酒瓶を持っている。どうやら酒の広告らしい。

しかし女性がほぼ全裸なのとはどう関係があるのか。教授が生徒たちに尋ねる。「なぜ女性の体がこんな風に使われているのだと思う?」。

これは、私が学んでいる広告分析の授業だ。メディア・リテラシー教育が盛んなカナダでは、広告は最も身近かつ社会的影響力が大きいメディアとして、頻繁に題材に取り上げられている。

中でも広告で描かれる女性像と男性像に関する研究は、日本の広告にもそのまま当てはまるのでご紹介しよう。この描かれ方には以下のような傾向があるとされる。

①女性は家事をし、男性は外で働いている 
②高級な買い物(家や車など)の決定権は男性が持つ 
③男性は女性に頼られる 
④女性は性的な対象である 

―ほら、あなたも身の回りの広告で思い当たるフシがあるでしょう。商品と無関係に女性の体を使う冒頭のような広告はもちろん④である。

今回はこの、女性を性的な対象として描く手法に注目してみたい。裏を読み解くと結構なクセモノなのだ。

例えばあまりにも身近なダイエットの広告。スリムでナイスバディなお姉さんたちが、「痩せて自信がついた」「彼氏が出来た」などと声高に主張していますね。これは、太目の女性に対して「あなたは自信を持つべきではない」「男性に愛されるはずはない」と言っているのと同じだ。

また、この季節に大量に見かけるムダ毛のお手入れや制汗スプレーの広告。毛や臭いがあったらオンナじゃない、とばかりに世の女性たちに迫ってくる。これらの広告は繰り返し訴えかけることで、均整のとれたプロポーション、すべすべ肌、無臭といった女性像が“標準”であると思い込ませ、そこから外れた女性たちの不安を煽り立てるのだ。

その結果、女性が無理なムダ毛処理で肌を痛めたり、摂食障害にすら陥ったりする深刻な事態が起きている。

一方、こうした広告で男性向けというのはどれだけあるか。近年徐々に男性向けの脱毛や制汗の広告も目立ってきたが、また大半は女性向けという印象だ。男性にも太目の人はたくさんいるし、ムダ毛の量や汗の臭いに至っては女性を上回っているにも関わらず、である。

なぜ女性ばかりがターゲットにされるのだろうか? 研究者は、広告が「男性の視点」で作られているためと指摘する。つまり、男性の目から見たセクシーな理想的女性像に近づくよう、広告が女性たちを誘導しているのだ。

なんと、こうして女性をコントロールすることで、男性が女性を支配する家父長制社会の維持につなげているという。ちょっと、コワいではないか。

その表現の一部を掘り下げるだけでも、広告の背後には複雑な思惑が潜んでいるのだ。あなたも今日から広告を「あんたの狙い通りには流されないもんね、へへん」という目で見てみよう。ウロコが落ちるかもしれません。

(初出:スペースアルク、2005)

 ☆画像は、広告分析のクラスで友人と。我ながら若い。

 

【参考文献】


『オトナのメディア・リテラシー』
渡辺真由子著

 

 

 

 






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2025年4月17日木曜日

「広告リテラシー」講演@東京(消費者向け)


ご報告が遅くなったが、都内で開かれた消費者イベントにて講演を務めた。

 「消費者のメディア・リテラシー」がテーマ。

主催は、足立区消費者センター。 

こちらでは以前にも同テーマで講演を務めており、当時参加された消費者団体の方々から、「また聞きたい」と強い要望があったという。恐れ入ります。

テレビやインターネット、SNSなどにみられる「広告」の読み解き方(リテラシー)を学び、メディアに惑わされない賢い消費者になろう、というのが今回の趣旨。

 

「メディア・リテラシー」とは?

広告の読み解き方
広告とジェンダー
誇大・偽装広告にご用心(コンプレックス産業など)
☆ミニ・ワークショップ

 ……といった内容をお話。
 
会場からは(なぜか)笑いが絶えず、
「とっても面白かったです!」と主催者の方。
 
そう、私たちの生活に身近な広告リテラシーとは、面白いものなのです。
 
お世話になった皆さま、ありがとうございました!
 

【参考文献】


『オトナのメディア・リテラシー』
渡辺真由子著

 

 









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2025年4月8日火曜日

フジテレビ第三者委報告書にみる「メディアと性暴力」

 

フジテレビと親会社フジ・メディア・ホールディングスが設置した第三者委員会の調査報告書が、3月31日に公表されてから1週間。

フジテレビ社員である女性アナウンサーが、タレントの中居正広氏から「業務の延長線上の性暴力」を受けたことが認定されたほか、フジテレビ側の「性暴力を助長する社内環境」も微細に暴かれ、前代未聞の内容となった。

ここでは取り急ぎ、メディアと人権を専門とし、かつ元テレビ局社員である立場から、私が気になった報告書のポイントを列挙しておく。
(肩書は当時)


【「性的同意」の誤解とメディアの性情報】

・フジテレビ幹部らは被害者救済の初動が遅れた理由として、「女性が同意して中居氏宅へ行った」ためプライベート案件と即断したとする。中居氏も本件の背景として、「2人だけになるのを女性が承諾してマンションに来た」と主張。性的同意への誤解は、かくも罪深い事態を生み出す。

・「なぜ自宅に行ってしまったのだろうか」と被害者を責める発言すら、港社長ら幹部から飛び出した(報告書p.39)。幹部らが若かった頃というのは、下記に示すような性的メディアが、恋愛マニュアルを盛んに発信し始めた時代。「家に行けば同意」とのメディアの性情報の影響があったかと思われる。

 

【「女性のモノ化」という価値観】

日枝氏や部下がフジテレビで勢いに乗った1960〜80年代は、グラビア週刊誌やAVが隆盛を始めた時期と重なる。それらのメディアから発せられていた「女性のモノ化」という価値観をそのまま吸収し、増幅させたのが、同局による女性の裸を見せる番組であり、ひいては上納文化ではないか。
*参照:
「メディアの性情報と性情報リテラシー® ~この10年で変わったこと、変わらないこと~」現代性教育研究ジャーナル』No.168、日本性教育協会、2025年、p.4

・フジテレビ内にはびこる「モノ化」の価値観については、調査報告書も指摘した:
"社員等を性別・年齢・容姿などを理由として会合に誘う場合、当該社員等の本人の仕事の能力や資質であるとか人格のある個人ということではなく、「そういう性別・年齢・容姿を持つモノ」として誘っている可能性が高い。" (報告書p.183)

 

【アナウンス職へのリスペクトの欠如】

・「女性アナウンサーは常におびえていて、何かあっても言わない人が多い。現在でさえ、女性アナウンサーたちは『コンプラとかに言わないでください』などと言う人もいて、何か主張していると思われたり、会社に迷惑をかけたりしたくないと思う傾向がある。」
「女性アナウンサーは、社内からどう見られるか気にしている。」
(中居氏の性暴力事案をコンプライアンス推進室に報告しなかった理由について、幹部G氏へのヒアリングより:報告書p.32)

→世間からは華やかにみえるアナウンサーだが、社内での地位は決して高くない。一挙手一投足が評価にさらされ、プロデューサーやディレクターほか周囲の人々から "選んでもらって" 仕事を得るというアナ職のありようが、彼女ら彼らを神経過敏にしている。

女性アナウンサーAがスイートルームの会から先に帰らされた時、「ノリが悪いから先に帰らされたのではないか」と感じた(同p.21)というのが象徴的。早く脱出できてよかった、と安心するのではない。性的な発言が出る芸能人との宴席においてすら、アナとして気に入ってもらわねばならないと思い込まされている。

アナウンサーを言葉の専門職としてリスペクトされる地位に引き上げねば、「タダで使えるホステス(ホスト)」かのような取り扱いは再発の懸念が残る。まずは採用および番組起用方針を、若さや容姿より、実力重視へと見直すことが求められよう。


【性暴力を矮小化する思考パターン】

・性被害を受けたフジテレビ女性社員たちは、一様に「大ごとにしたくない」と述べていた。その理由は「セクハラを訴える=メンタルが弱い/面倒くさい奴/仕事ができない奴」と思われるから、と。この思考パターンは加害者側に都合の良いものであり、これを社員に刷り込んできたフジ上層部は悪質。
*セクハラを矮小化する思考パターン(枠組み)の例は、拙著『オトナのメディア・リテラシー』「そもそも、言葉づかいを疑おう」で

 

【ジェンダーのアンコンシャス・バイアス】

・フジテレビの女性役員は2022年までゼロ。2023年から1人。(報告書p.197)

 「女性社員が部長に就任した際、局長から『この部署のお母さんとして』と言われたと聞いた。シャドーワークをたくさんやれ、何でも受け入れろという趣旨だと思うが、令和6年にもなってこんなことを言うのかと思った」(役職員へのヒアリングより:同p.201)


【顧問弁護士との関係性】

中居氏の件とは別に明らかになった、フジテレビの「重要な社内ハラスメント事案」。男性社員が女性社員に対し、暴行や不同意わいせつ行為を行ったとされるもの。この男性社員への処分について、同局の顧問弁護士は「刑法に違反する事案に該当し得るものの、汲むべき事情があることも考慮して審議されたい」旨を意見した。(報告書p.162)

→この男性社員は、暴行や不同意わいせつ行為を行ったことを認めていない。顧問弁護士が主張した「汲むべき事情」とは、"本件において対象者が、暴行や不同意わいせつ行為を行ったことは認めないものの、自らの行動に問題があったことを認め、また反省を示していること" であった。(同上)

一方、第三者委員会は、"当委員会としては、本件に関してセクハラ行為も、これに伴う暴力行為も、いずれも優に認定し得ると判断しており、かつ、その行為態様は、本来であれば刑事責任を問われかねない、極めて悪質なものであった" と指摘している。(同p.164)

 

総 括

フジテレビをめぐる第三者委員会調査報告書の内容は、「再生」や「信頼回復」のかけ声が虚しく聞こえるレベルである。性暴力のきっかけを作る社員に加え、セクハラ加害をする社員を多数抱える組織が、果たして今後も存続できるのか。

仮に存続しようとするのであれば、まずは性暴力を助長する社内環境を支えてきた幹部を、一掃しなければならない。そして残った役職員に対しては、徹底した人権研修が必要になるだろう。







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