2018年9月24日月曜日

北九州市はなぜ栄えないのか(寄稿)

けさの朝日新聞全国版に、
『人口 増える福岡 減る北九州』
という記事が掲載されていた。

どちらも政令指定都市でありながら、
福岡市は人口増の割合が全国トップ、
北九州市はワーストと、明暗を分けている。

そういえば私もかつて、
テレビ局記者として北九州市に暮らし、
取材をしていたことがある。

当時、地元の商工会議所からの御依頼で
「北九州市の発展に求められるもの」について
執筆したことを思い出したので、
ご参考までに紹介しておこう
(16年前の原稿ですけどね):


【もっと選択肢を】        


 北九州支社への転勤が決まったとき、福岡本社の同僚たちからは随分同情されたものだ。「遊ぶところないよ」「はっきり言って錆びれてる」「ヤンキーとホームレスの街よ」etc……。私たちの会社では、報道部員は持ち回りで2年間の北九州勤務をすることになっている。自分の番がいつ来るか、皆ヒヤヒヤしながら待っているのだ。


 だが県外出身者の私には、なぜ周囲がそこまで北九州を敬遠するのか最初はよくわからなかった。北九州市も福岡市も同じ福岡県内にあり、しかも共に政令指定都市である。大した違いがあるとは思えない。確かに北九州という地名は就職で九州に来るまで殆ど聞いたことがなかったが、それは自分が高校時代に地理の授業を全て睡眠に充てていたせいだと思っていた。


 そして去年3月、いよいよ北九州に着任。事前に随分悪評(?)を聞かされていたので新幹線を降りるときには身構えたが、初めて見る小倉駅は想像よりはるかに大きく、きれいだった。駅にはホテルも入っているし、なんとモノレールが突っ込んでいるではないか。目の前に広がる景観のスケールの大きさは嬉しい裏切りだった。一方、街中を歩いてみるとこれはなるほど汚い。ゴミが路上のあちらこちらに散らばって異臭を放っている。若者のファッションはなぜかジャージが多い。サングラスをかけて肩をいからせたいかにもそっち系のオジさんたちと普通にすれ違うのも不思議だ。


 でも、市場のごちゃごちゃした感じや、昼間から道端に座ってボーッとしている人たちの姿は、何度か訪れた東南アジアの国の街角を思い起こさせる。福岡市の街はこぎれいにまとまり過ぎて無菌状態の印象を受けたが、小倉はその清濁併せ呑む「ごった煮」の雰囲気が独特の魅力を醸し出している。意外にも私は、小倉という地をさほど抵抗無く受け入れることが出来たのだった。


 しかしながらこの都市でハタと困ることがある。買い物だ。小倉駅周辺で若者がショッピングできる大型店といえば、駅ビルとファッションビルとデパートの3つで、終わり。これでは選択肢があまりに限られてしまっている。雑誌に載っていたブランドの後追いも出来ない。福岡市の天神には洒落た店がひしめき合っているというのに、同じ100万都市としてこの差はなんとも哀しくはないか。これではとりあえず、そごう跡の後継店に期待するしかない。

 奇しくも先日、そごう跡で仮営業している小倉玉屋が閉店を発表したばかり。閉店について市民にインタビューしたところ、年配の人からは惜しむ声が相次いだが、若い女性などは「どこでもいいから品揃えの充実した店舗がそごう跡に入って欲しい」と本音を覗かせた。若者はとにかく選択肢に飢えているのである。せっかくならまだ福岡市にも進出していないようなハ●ズやLotに来て欲しいが、どうやら無理っぽいので、せめて既存の店舗と商品がダブらない店が後継ぎとなることを切に願う。


 選択肢といえば避けて通れないのがカフェの問題だ。地元情報誌の編集者によると、この街に新たにやって来た人はいわゆるカフェのあまりの少なさに驚くのだそうだ。特定のチェーンの喫茶店はかなり目につくのだが、いまや街のお洒落度の指標となった天下の「スターバックス」がない。副都心の黒崎にあって都心の小倉にないのは納得がいかないところである。


 ファッションビルもカフェも、街のイメージを決定付けるのに大きな役割を持つ。「鉄冷え」「暴力」といったイメージから脱却するには、選択肢を増やして街にお洒落な若者を溢れさせる必要がある。そして近い将来、北九州に転勤することが羨ましがられるような時代が、来ますように。


(『北九州商工会議所報』、2002年)


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